年間ベスト 2022

1. Lithops - Uni Umit (1998)

 Mouse On MarsのJan St. Wernerの初ソロ作。あらゆる落ち着きたいシチュエーションや、心の安寧を助けてくれた。踊るベースと粗いサンプルやシンセの質感、ノイズ。統合されたゲシュタルトは不思議なムード。

 一昨年くらいだったか、iPod Classicを修理してから、外ではCDからリッピング、あるいはダウンロードした音源ばかり聴くようになった。家ではレコードとCDばかりだし、Apple Musicはたまに容量デカめのmicroSDを入れたタブレットで開いてロスレスで聴くも挙動がおかしくて面倒になったり。

 iPhoneはブルアカだの写真だのでストレージが足りないし、いよいよ黒い鏡にしか見えない。

 ありきたりではあるけれど、ネットに縛られて本当は困っている。iPod Classicとイヤホンだけを手にして、このアルバムUni Umit、そしてScott Walkerの3と4、NINと二人によるサントラ群(Mankは挙げなかったが2020年ベストアルバムだ)、パソコン音楽クラブのSee-Voice(今年出た本作のLPもすばらしかった。タワレコ吉祥寺店での最後の買い物だった)ばかり聴いた。自分の心の海と、ひいてはその先にある社会と向き合う気持ちを取り戻そうとしていた。

 

2. For Tracy Hyde - Hotel Insomnia (2022)

 今までありがとうございました。勝手にツイッターのフォロワーたちや10年代初めのネットレーベル周りの希望を託してばかりだったと思う。定期的に夏botさんのサンクラ全曲聴き返して、俺はいつ、どうやったら夏botさんにたどり着けるのだろうかと思っていた(これ本人に話したとき昔の夏botさんの曲のほうがいいみたいな感じに受け取られてしまった気がする)。夏botさんはずっと遥か遠くにいる。2012年、フォトハイを知って、カナレコに憧れて全ディスコグラフィーをダウンロードして、当時やっていた(仮)ズの曲にめちゃくちゃ影響があったことを思い出す。そうしていろんな人とかかわったこと、仲良くなったこと。もう遠い過去だけど、まだ俺たちはおかしくなってない。まだいける、俺はやるよ、そんなことを思ったりする。

 アルバムそのものの話もしなきゃいけないのはわかるけど、まだしたくない。マスタリングにマークガードナーを呼んだのは仕事じゃなくてバーターでしかないだろってキレそうだったけど、実際に聴いたらとても良かった。特に好きなのはEstuary、Natalie、そしてSubway Station Revelation。夏botさん、そしてフォトハイにしかできない曲だと思う。

 

3. Freur - Doot Doot (1983)

 Underworldの前身バンドであるUnderworldの前身バンド。音がめちゃくちゃ良くて興奮した。3曲目Riders In The Nightとか、モダンで大仰で良い。全編暗くてしなやかだけど、シンセやエディット感覚に棘があって、好きだった。1曲目(名曲!)にBjorkのHyperballadっぽいシンセが入ってる。ダブ感もあり。

 

4. The Mothmen - Pay Attention! (1981)

 シャーウッドのOn-Uの二作目のリリース、すごすぎる。乱反射して刺さるギター、ズブズブなリズム、頓狂な歌、最高だが、Beat Recordsから出た日本盤CDで解説を読んだところバンドの末路に絶望。ぜひ読んでみてほしい。

 めちゃくちゃになりたい人はまずAnimal Animaux、Mothmanあたりの曲を聴くとよい。

 暗い曲が好きな人はDoes It Matter Irene?を聴くとよい。

 ところで、春か夏にフォロワー二人とジャニス2に行って、このCDを買ったのが最後のジャニス2での思い出になった。

 

5. littlegirlhiace - yakinch fear satan (2022)

 1曲目、初期Bibioのようなローファイなグリッチが流れてyakinch fear satanは幕を開ける。ふにゃっちさんのプロジェクトlittlegirlhiaceは鋭利な歌詞とシロップのようなソングライティングでいつもしっかりしていて憧れてしまうのだが、この曲は痛ましい歌詞とローファイなエレクトロニクスのコントラストに感動した。2曲目以降のどの曲もいいけれど個人的にはアマガミのリファレンスがあるsweetest biteが大好きだ。今年、銚子に聖地巡礼に行ったとき、アマガミのキャラクターたちがたしかにそこにいたのだと思った感情がこの曲に詰まっているから。1999年の冬に例えば絢辻さんが、あるいは薫が、彼や彼女たちは、日本の端で葛藤していたかもしれない。いや、そんなこと何処にいたって、誰だってそうだ。すべての人に感情があることすらアマガミを通じて改めて気づかされてしまった。襟を正されたような気持ちになったことをsweetest biteを聴いて、何度も思い出す。

 

6. Matmos - The Civil War (2003)

 今年20周年となるMatmosのアルバム。曙太郎さんの車で聴かせてもらってよかったのがきっかけでたくさん聴いた。IDM名盤。

 17世紀の英国内乱と19世紀のアメリ南北戦争を組み合わせてしまうというテーマで作られたアルバム。トラッドだったりするがエレクトロニクスが良い塩梅で組み合わさっている。世界が加速してジャンルがどうでもよくなった今、すごく面白く感じる。

 

7. Muddy Waters - Electric Mud (1968)

 詳しく知らないので詳しい人の説明とか読んだほうがいい。今まで嫌がっていたブルース的なものを聴くきっかけになった。ビートに対しても感覚が変わった。録音が隙間あるけどどっしりしてて良い。

 

8. Skeptics - 3 (1988)

 ニュージーランドのFlying Nunから。2013年にCaptured Tracksがリイシューしたアルバム。

 音がNINのBad Witchみたいなエネルギーあって良い。

 

9. Death Cab For Cutie - I Don't Know How I Survive & Roman Candles (2022)

 クリス脱退後のDCFCはベンの歌の癖が強くなり、音の質感もギターにコーラスかかりまくってたりと、なんだかつるっとしていて、基本的に好きではない。けれど、新作「Asphalt Meadows」の最初の二曲での挑戦はすごくよかったと思う。I Don't Know How I SurviveではDCFC節(いや、全曲DCFC節ではあるんだけど、あまりに直截的なニューウェイブ曲とかが好きじゃないんだと思う)の歌詞とメロディ、そして2:50あたりからのギターソロではTransatlanticismの凶暴なエモーションが蘇ってくる。ミニマルなエレクトロニクスとバンドの融合が自然になされていて、それでいて曲はめちゃくちゃエモーショナル、という20年前にThe Postal Serviceでベンが成し遂げたことを改めてやっている。Roman CandlesはDCFCのエモでありながら明らかにLow(R.I.P. Mimi Parker)のオマージュだ。リズムパターンが大好きなDCFCだし、1:30からの下降していくギターリフはMarching Bands Of Manhattanのようで、胸が締めつけられる。

 

10. アルバムのリリースおよびツアー (2022)

 Pot-pourriのアルバム「Diary」には心血を注いだ。伝わった人にはしっかり伝わっていて嬉しい。まだ聴いていない人も薦めたい。いろんな人が全力を尽くしていて、良い。ライブもどんどん良くなっていると思う。すべてのライブで毎回新しいリミックスが作られるような感じです。

 

11. スキャナー・ダークリー (2006) 殺人の追憶 (2003) コズモポリス (2012) ザ・バットマン (2022) ドッグ・ソルジャー(1978) ドクター・ストレンジマルチバース・オブ・マッドネス (2022) 王立宇宙軍オネアミスの翼 (1987) 劇場版アイカツプラネット!/アイカツ!未来へのSTARWAY (2022) チップとデールの大作戦 (2022) ゴースト・ハンターズ (1986)

 今年観て、よかった映画です。

 

12. ブルーアーカイブ (2021~)

 フォロワーのkマさんに勧められて恐る恐る始めた結果、ストーリーもキャラもすごすぎて毎日やってます。断片的につながっていてそれぞれが面白いストーリーたちは萌え萌えMCUと呼ばれている。キャラクターがみんな、記号化された表現から踏み超えて新しいものになっていて良い。あとカヨコが大好き。声を聴けば如何にすごいか皆もわかるだろう。

 

13. タコス

 テックスメックスじゃないタコスをたくさん作って食べた。おいしい。

 

14. カナダドライジンジャーエール

 ペプシ・コーラ原理主義なのでコカ・コーラ社の飲み物はなるべく飲まないぐらいなのだが、コロナに罹患したあと一時的に嗅覚がおかしくなったときに、さっぱりしたものが飲みたいとふとカナダドライジンジャーエールを飲んだらすごく良くて、入手のしやすさとおいしさでさらにハマった。

 

15. Nada Surf - The Weight Is A Gift (2005)

 前述のDCFCのギタリストでありプロデューサーでもあったクリスウォラを起用して作られたアルバム。アジカンのゴッチはクリスとNada Surfどちらともつながりがあり、三組での対談をしたことがある。ネットに上がっているので、必見。

 Always Loveという超名曲のMVが転がる岩、君に朝が降るのMVで参照されたり、アジカンのツアーでライブ演出としてオマージュ(ライブ終演後にSEとして流れるという徹底ぶりだった)されていたりしたことを、ぼっちざろっくを全話見てふと思い出して、CDを引っ張り出してたくさん聴いた。

youtu.be

 本当にいい曲。ずっと歌がある。

 

16. アニメ「ぼっち・ざ・ろっく! (2022)」

 2022年に化物語のような自意識過剰なアニメが作られて最高。演出が最高。顔ばかりきれいに描かれて大量の撮影処理で盛られたアニメの見過ぎで心がおかしくなりそうだったので本当に救われたと思う。12話の締め方も完璧。俺は化物語が一番好きなアニメなので、本当にうれしい。でも転がる岩、君に朝が降るのギターソロのメロディはアレンジしちゃいけない箇所だからゆるしてない。

 

17. ASIAN KUNG-FU GENERATION - ワールドワールドワールド (2008)

 TSUTAYAで借りて、MDに焼いたし、ステレオミニジャックから直接録音できるケーブルを買ってもらって、録音してウォークマンでめっちゃ聴きました。

 …という当時の思い出はともかく、もう15年聴いているこのアルバムについて今さら何を話したらいいのか考えたけれど、一番に言えるのは、このアルバムはコロンブスの卵であるということ。Jポップのフォーマットや世界が嫌いで耳も心も塞いでいた小学生の僕にとって、このエネルギーの凝縮のようなアルバムは、衝撃と新しい視点を与えたのだとか、そんなことを振り返っていた。

 アジカンの出自はよく知られているように、オアシス、ウィーザーナンバガイースタンユース、そして上世代のエモ/メロコア(僕自身は好きではないため挙げられるバンドがいないが、アジカンハスキングビーのトリビュート作でカバーしているのは言及しておくべきだろう)である。それらの影響から慎ましやかな彼らの作風になるのは本当に不思議だし、それらから受けられた豊かさはわずかだ。例えばR&Bやファンクのような歴史につながるわけではなく、パンクの長い積み重ねにも深入りすることはできなかった。それでもいろんな試みとともにソルファを作ったアジカンは、ソルファで多様なパターンを披露し武器の一つだった伊地知のドラムに着目し、リズムの模索を始める。

 できあがったファンクラブというアルバムは歴史と断絶した貧困の中での模索の果てに練りあがった自家中毒の産物である。同じコードで繋がっている続編、ワールドワールドワールドも同様だ。アルバムとしてはビートルズを参照しているが、それはもはや参照のうちには入らない。

 ベースとドラムはタイトに刻まれ、歌とギターは複数のメロディを同時進行で絡み合わせる。それなのに音はずっとデカく、ダイナミクスに欠けている。

 たくさんの音楽を聴く音楽ファンにとって、他の音楽との繋がりを見つけることが異常に難しいこのアルバム達はとっつきにくいことこの上ないだろうし、聴くことは難しいのではないだろうか。

 だからこそ、世界で生産されていく音楽に対して面白さも何も感じなかった子供のころの自分には、何もかもが新しくて興奮するものだった。豊かな歴史の中にあるものから得られない感情がそこにあったのだと思う。

 それがファンクラブ、ワールドワールドワールド、未だ見ぬ明日に、三作のコロンブスの卵だ。

 2022年の俺は抜け殻だったし、発破が必要だった。このアルバムを聴き返して、何もかも新しかったころのエネルギーを体に循環させる。いまだに覚えている歌詞を改めて反芻して、歯を食いしばるのだ。

 ワールドワールドワールドを聴いて外に出る。

 以上。数字はただの見出しで、順位ではない。混乱させたならよかった。久々に文章が書けた。うれしい。